平成27年度福島県小児科医会総会声明

平成27年7月5日総会採択

平成27年度第50回福島県小児科医会総会声明

「福島の子どもたちの未来を守るために-復興を担う子どもたちと子育て世代への包括的支援を求める-」

 

 東日本大震災による被害および東京電力福島第一原子力発電所事故による原子力災害は、事故後4年以上を経過してもなお福島県民なかでも子どもたちの生活や心身に多大な影響をもたらし続けており、現在までの影響のみならず将来の子どもたちのゆくすえも懸念されます。
 私たち小児科医会は震災/事故以降、子どもたちの健康を守るために微力ながら会員一同一丸となってさまざまな努力を続けてきました。しかしながら私たち小児科医にできる活動は限られており、真に福島の子どもたちの未来を守るためには、広く子育て支援を求めていく必要があると考えております。そのような観点から私たちは平成24年度以来、毎年当会総会にて声明を採択し関係機関へ要望を行なってきました。今回震災/事故後4年を経過した現在、いままで明らかになった子どもの健康・保健上の問題点を踏まえ、本年度も総会にて当医会の考え方ならびに要望を小児科医会声明として採択することといたしました。
 つきましては子どもたちの未来を守る立場のすべての皆様方におかれましては当医会の声明内容につきご理解いただくとともに、今後の更なるご支援ご協力をお願いしたいと存じます。

 

私たち小児科医会は福島の子どもたちの健康を守る立場からのみならず、震災/事故後の復興を見据えた長期的な子育て支援という観点から、平成26年度に引き続き今回の声明を発するとともに、より速やかな具体策の実施を求め以下の点につき関係諸機関に要望いたします。

 

1.子どもを取り巻く環境整備

1)子どもたちにとって安全・安心な環境を可及的速やかに取り戻し、事故以前に勝る子どもたちが育ちやすい環境整備を図ること
2)子どもたちにとって安全・安心な住環境・養育環境・教育環境を、県当局をはじめとする県内各自治体は責任をもって整備・保証し、また食育においても安全・安心を担保できる体制を維持継続すること
3)子どもたちの心身の健康を育み体力の向上を図るため、安心して遊び・運動・活動ができる施設をさらに整備するのみならず、イベント・プログラムなどの充実を図り、運用についても十分な配慮を行うこと。また県外からの転入者にとっても不安なく子どもが成長できる環境を保証すること

2.子どもたちを生み育てる若い世代への包括的子育て支援

1)若い世代に対してはいわゆる子育て支援策のみならず生活全般についての支援をより強化する
2)少子化に歯止めをかけまた若い世代の人口流出を防止するため、若い世代が住みやすい環境を実現すること
3)子どもたちの保育への直接的支援のみならず、若い世代への就労支援、男女共助支援策などを講じ、子どもを育てやすい環境を整える
4)少子化への直接的対策としての不妊治療費助成などの具体策を充実させる

3.子どもたちの健康を守るための小児医療・母子医療・保健施策の実現

1)小児期の予防医療として最も重要である予防接種については、任意予防接種は一部の自治体を除きすべて自己負担であり、多くの保護者にとって経済的負担は大きい。これらを軽減するために当医会は独自に避難者へのロタワクチン無料接種事業などを行なってきたところであるが、当県の子どもたちをVPD(注1)から守るためにすべての小児期の任意予防接種(注2)の公費助成による無料化を求める

  (注1:Vaccine Preventable Disease=ワクチンで予防可能な病気

注2:ロタワクチン、B型肝炎ワクチン、おたふくかぜワクチン、インフルエンザワクチン)

 

2)県内の小児救急医療、周産期医療については震災/事故後の医療従事者の減少、高齢化などにより疲弊しつつあり、とくに産科医療については危機的状況とも考えられ、その医療体制の整備・充実は急務である。小児救急、周産期医療については医療圏毎に集約化を実現するとともに、必要とされる医療従事者の確保策等を実行することを要望する。

また近年の発達障害児の増加等によるニーズに応じ切れていない発達障害/心身障害児への療育医療についても医療圏毎の整備を要望する。

3)子どもたちならびに子どもを望む未来の母親へ最高レベルの医療が提供できるよう、また医療格差、医師不足を解消する方策として、また子育て支援と復興のシンボルとして、県内に小児医療、周産期医療、療育医療を集約した「総合成育医療センター(または総合母子医療・療育センター)の設置」を望む

 

4.子どもたちへの健康影響(その可能性も含む)への対応と将来にわたる健康管理

1)震災/事故によって惹起された、あるいはその可能性のある心身の健康影響については疫学的調査を含め緻密な健康管理を行っていくことと共に、その結果については速やかに情報公開を行うこと。また何らかの健康影響が認められる場合はその対策を速やかにおこなうこと

 

2)県民健康調査における甲状腺検査のすすめ方について

県民健康調査の一環として行われている超音波検査による甲状腺検査(ならびにその後の精密検査)については甲状腺がんおよびその疑いとされた者が126名(H27.3.31現在)にも達しており、県民の一部に不安が生じている。この結果について現段階では科学的かつ客観的評価は困難と思われるものの、子どもたちの健康を守り不安を軽減する立場から今後の検査およびその後の医療・ケアのすすめ方については別記した事項を要望する。

 

5.将来にわたっての子どもたちおよびその家族への継続的な支援

被災者、避難者(自主避難を含む)である子どもたちおよびその家族、また避難はせずとも不安を抱える子どもたち/家族については将来にわたる長期的かつ強力な支援が必要と考えられる。特に県外避難の子どもたち/家族については相談員を派遣するなどの直接的なアプローチにより状況を把握するとともに、情報提供、生活支援、こころのケアなどの継続的な支援を続けること

 

 

県民健康調査における甲状腺検査(以下「甲状腺検査」)に関しては以下の事項を要望する

 

①検査の事前説明と同意取得

甲状腺検査の必要性、メリットならびに考えられるデメリット両面についての受診者(保護者)への十分な説明を徹底することと、それらを明記した同意書を取得すること
②検査の結果説明
有所見者については画像のフィードバックも含め所見の意味するところを分かりやすく説明するとともに今後の経過観察の必要性などを十分説明し不安を軽減すること
③セカンドオピニオンも含む医療提供
有所見者、要医療者についてはセカンドオピニオンの提供も含む十分な説明と同意に基づく医療提供を行なうこと
④フォロー体制の構築と医療費無料化
要医療者、要経過観察者についてはこころのケアも含むフォロー体制の構築と将来にわたる甲状腺にかかわる医療費の無料化を
⑤情報公開
甲状腺検査の実施状況およびその結果については有所見者、要医療者のその後の経過を含めた詳細な情報公開を行うこと
⑥「甲状腺検査」検討会の開催
現状ならびに今後の「甲状腺検査」については、結果の評価、その後の医療とケア、今後の「甲状腺検査」そのもののすすめ方等に関して専門家のみならず、一般の医療従事者、関係者、受診者(保護者)等を交えた公開の場で検討しその方向性を定める機会を設けること

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