平成28年度福島県小児科医会声明

平成28年7月3日採択
福島県小児科医会総会

平成28年度第51回福島県小児科医会総会声明

「福島の子どもたちの未来を守る-
    復興を担う健やかな子どもたちを育むために-」

平成23年3月11日発生した東日本大震災以来5年が経過しました。全国的には被災の記憶は月日を重ねるごとに薄れてきているように思われますが、被災地である東北三県にとって真の復興への道のりは未だ始まったばかりと思われます。
特に当県においては東京電力福島第一原子力発電所事故による原子力災害のもたらした影響は大きく、事故後5年を経過しても避難の方々のみならず、県民全員に心身の負担を与えております。なかでも災害の影響を受けやすいとされる子どもたちにおいてはこの5年という短い期間において肥満の増加、体力低下、こころの健康度の悪化など明らかな健康影響がみられており、今後の子どもたちの将来が心配されます。また県民健康調査甲状腺検査事業においては被ばくの影響とは考えにくいものの、この5年間に多数の甲状腺がんが発見されており健康不安の一因となっております。このような状況下においては復興を担う子どもたちの健やかな成長を育むことは困難であるといわざるを得ません。
私たち小児科医会は震災/事故以降、子どもたちの健康を守るために微力ながら会員一同一丸となってさまざまな努力を続けてきました。しかしながら私たち小児科医にできる活動は限られており、真に福島の子どもたちの未来を守るためには、広く子育て支援を求めていく必要があると考えております。そのような観点から私たちは平成24年度以来、毎年当会総会にて声明を採択し関係機関へ要望を行なってきました。今回震災/事故後5年を経過した現在、いままで明らかになった子どもの健康・子育て支援上の問題点を踏まえ、本年度も総会にて当医会の考え方ならびに要望を小児科医会声明として採択することといたしました。
つきましては子どもたちの未来を守る立場のすべての皆様方におかれましては当医会の声明内容につきご理解いただくとともに、今後の更なるご支援ご協力をお願いしたいと存じます。

私たち小児科医会は福島の子どもたちの健康を守る立場からのみならず、震災/事故後の復興を見据えた長期的な子育て支援という観点から、平成27年度に引き続き今回の声明を発するとともに、より速やかな具体策の実施を求め以下の点につき関係諸機関に要望いたします。

1.子どもたちへの健康影響(その可能性も含む)への対応と将来にわたる健康管理
1)東日本大震災/東電原発事故によって惹起された、あるいはその可能性のある心身の健康影響については今後も疫学的調査を含め緻密な継続的健康管理を行っていくことと共に、その結果について速やかに情報公開を行うこと。また何らかの健康影響が認められる場合は健康調査のすすめ方自体についても検討しその対策を速やかにおこなうこと。

2)県民健康調査における甲状腺検査と甲状腺がんの多数報告について
県民健康調査の一環として行われている甲状腺検査事業については甲状腺がんおよびその疑いとされた者が172名(H28.3.31現在)にも達している。一般的発生頻度を大幅に上回る今回の多数報告について現段階では科学的かつ客観的評価は困難と思われるものの、被検者である児童青少年およびその保護者のみならず一般県民の間にも健康不安が生じている。
当医会としては子どもたちの将来の健康を守りかつ現在の不安を軽減する立場から、甲状腺検査事業およびその後の医療・ケアのすすめ方については、事業実施の一部見直しを含む再検討が必要と考える。
当医会としても会内に「甲状腺検査の在り方検討委員会」を設置しこの問題について検討を続けていくが、当面の事業を行う側においては被検者および保護者に寄り添った説明と同意を大前提とした事業の遂行ならびに事業結果についての一般県民へのわかりやすい説明と情報公開が必要と考える。
なお昨年度総会声明における「甲状腺検査に関する要望事項」を本声明文末に別記再掲する。

2.子どもを取り巻く安全安心な環境整備と、子どもを産み育てる若い世代をも含んだ包括的子育て支援
1)子どもたちにとって事故以前に勝る安全・安心な生活環境・養育環境・教育環境を、県当局をはじめとする県内各自治体は責任をもって整備・保証し、また食育においても安全・安心を担保できる体制を維持継続すること
2)子どもたちの心身の健康を育み体力・知力の向上を図るため、安心して遊び・運動・活動ができる施設を整備するのみならず、人的支援策を講じ保育・幼育・教育面においても他県を凌駕する環境を整備すること。
3)少子化に歯止めをかけまた若い世代の人口流出を防止するため、若い世代が住みやすい環境を実現し、生活面では子育て支援のみならず就労支援、男女共助支援策など生活全般についての支援をより強化する。また「子どもの貧困」対策を強化する。
4)わが国の少子化の一因ともされる貧弱な保育環境を改善するために保育所(園)、託児施設の整備充実を実施し、待機児童の解消を図るとともに保育料負担の軽減化をめざす。また病児保育施設の増設について対策を講じる。

3.避難および帰還の子どもたちおよびその家族への継続的な支援
被災者、避難者(自主避難を含む)である子どもたちおよびその家族、また避難はせずとも不安を抱える子どもたち/家族、さらに避難区域解除に伴い帰還した子どもたち/家族については、現実の生活上の困難、健康への不安、保育・養育・学業上の不安、将来への不安など様々の問題を抱えている。これらの子どもたちへの支援は子育て支援全般の中でもことさら重要であり、避難者支援策においても中心的に考えられるべきである。
国・県・各市町村においては避難の子どもたちの子育て環境状況を把握し、避難者支援の中での子育て支援策を強化することにより、安心な生活と子育ちが実現できるよう配慮することを求める。

4.子どもたちの健康を守るための小児医療・母子医療・保健施策の実現
被災にもかかわらず「日本一元気でたくましい子どもの育ちの実現」(福島県策定:ふくしま新生夢プランより)には、当県が他都道府県にさきがけて先進的な小児医療/母子医療体制を構築し、積極的な保健施策を実施することが必須である。
以下に掲げる項目についての具体的な対応を要望する
1)任意予防接種の公費助成
自己負担により行われる任意予防接種については県内の先進的自治体において公費助成を行う動きが活発となってきているが、避難区域を抱える自治体等については公費助成が行われていない。当県の子どもたちをワクチンで予防可能な病気(VPD)から守るために小児期の任意予防接種(注1)の公費助成を県の主導のもとに積極的に進めていくことを望む
注1:ロタワクチン、おたふくかぜワクチン、インフルエンザワクチン、髄膜炎菌ワクチン
2)県内小児救急・周産期医療体制の整備
県内の小児救急医療、新生児・周産期医療については震災/事故後の医療従事者の減少、高齢化などにより疲弊しつつあり、とくに産科医療については危機的状況とも考えられその医療体制の整備・充実は急務である。本年度より福島県立医科大学においては総合周産期母子医療センターならびにこども医療センターの運用が開始される予定であり、この分野における医療の充実が期待されるが、同時に県内医療圏毎の集約化を実現し、地域の医療ニーズに対応するとともに、医療従事者の確保策等を実行することを望む。
3)小児高度医療・専門医療・療育医療・在宅医療の充実
近々にも福島県立医大こども医療センターを中心とした小児高度医療提供体制が開始される見込みであるが、同センターには県内小児高度医療・専門医療のニーズに応じるのみならず、県内小児医療を一体的に運用できるよう必要に応じて分散化も図りつつその体制整備を行うことを望む。
また近年増加傾向のみられる発達障害児の療育については、専門医・専門医療機関の不足により、そのニーズに応じ切れていない。本県における中心的療育施設の整備強化ならびに医療圏毎の専門的医療の提供体制の充実が望まれる。
小児医療の高度化に伴い、在宅での療養を必要とする子どもたちも増加傾向がみられており、在宅医療を必要とする子どもたちおよび保護者の心身の負担は大きい。本県での小児在宅医療は組織化されておらず中心となる医療機関も未整備であり、医療提供体制の整備強化は人的資源も含め急務である。
4)小児医療・周産期医療従事者・小児(母子)保健従事者の確保・育成
以上に挙げた小児医療・母子医療体制および小児(母子)保健充実強化には医療従事者の確保・育成が必須であるが、本県では震災以降医療従事者の慢性的不足が続いている。医師、看護師を中心とした医療従事者の確保はもとより、震災後の子どもたちの抱える諸問題に寄り添い子育て支援を実現するには保健師、心理士、保育士等のコメディカルスタッフの充実・確保・育成が重要である。
これらの医療従事者の確保・定着・育成を成し遂げるための具体的方策の策定を望む。

別記:県民健康調査における甲状腺検査に関する要望事項
(H27年度福島県小児科医会声明より一部抜粋、再掲)

県民健康調査における甲状腺検査(以下「甲状腺検査」)に関しては以下の事項を
要望する(再掲)

①検査の事前説明と同意取得
甲状腺検査の必要性、メリットならびに考えられるデメリット両面についての受診者(保護者)への十分な説明を徹底することと、それらを明記した同意書を取得すること
②検査の結果説明
有所見者については画像のフィードバックも含め所見の意味するところを分かりやすく説明するとともに今後の経過観察の必要性などを十分説明し不安を軽減すること
③セカンドオピニオンも含む医療提供
有所見者、要医療者についてはセカンドオピニオンの提供も含む十分な説明と同意に基づく医療提供を行なうこと
④フォロー体制の構築と医療費無料化
要医療者、要経過観察者についてはこころのケアも含むフォロー体制の構築と将来にわたる甲状腺にかかわる医療費の無料化を
⑤情報公開
甲状腺検査の実施状況およびその結果については有所見者、要医療者のその後の経過を含めた詳細な情報公開を行うこと
⑥「甲状腺検査」検討会の開催
現状ならびに今後の「甲状腺検査」については、結果の評価、その後の医療とケア、今後の「甲状腺検査」そのもののすすめ方等に関して専門家のみならず、一般の医療従事者、関係者、受診者(保護者)等を交えた公開の場で検討しその方向性を定める機会を設けること

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